手の記憶
SX70という古いポラロイドカメラを買った。
じつは同じような新しい型で680というのを持っているんだけど、この茶色の革張りが目に入ってしまってどうしようもなかった。このカメラは僕が小学校低学年の頃に母が持っていたものとまったく同じだったのだ。
いつも母と鶴屋に行っては、フィルムとフラッシュを買って、それを僕がばんばん使っていた。あの頃は10枚入りのポラロイド用フィルムがあんなに高いなんて知りもしないし、とにかく興味のあるものを撮りまくっていた。カメラはいつの間にか見かけなくなって、撮った写真もどこへ行ったのか分からず、中学に上がる頃にはカメラの存在さえ忘れていたけど、大人になってカメラマンになって、自分の写真との出会いをふと思い返してみたとき、あの質のいい茶色の革とステンレスの鈍くて冷たい手触りをはっきりと覚えていた。素晴らしいカメラだったと子供の頃の僕の手は覚えていた。
僕にとってこのカメラは、昔の記憶、もしくは家族の記憶に触れるためにあるのかもしれない。またこいつで家族をを撮ってみよう。子供の頃のように。