The smell of sky

Photographer。知らない土地と、スタンダードが好き。アート、自然、田舎は心がヒリヒリして落ち着く。最近は400年に1度の大地震を経験して新たな悟りを開く。煩悩がある人間はこんなことがないと気づかない。

白川橋にて

ちょっと前の話。

熊本駅近くの橋の上で撮影をしていると、一人のおじさんが「熊本城はどっちね?」と、歩いてきた。方角違いに歩いてきていることや、言葉のイントネーションから遠くから来た人であることはすぐに分かり、「おじさん、熊本城はあっちの方です。いまビルに隠れてるほう。」「あそこの路面電車に乗ればどれに乗っても一律150円で着きますから。○○で降りてください、熊本は良いところですよー。楽しんできてくださいね。」などと、旅好きな自分が旅先で親切にされた時の経験を活かして丁寧に伝えた。地元の小さな親切が旅先の大切な想い出に残ることを僕は知っているし、喜んでくれるだろうと思って。

そして案の定喜んでいただいたのだろう、それからおじさんは四方山話(よもやまばなし)に入り、鹿児島の開聞岳と桜島、熊本の阿蘇山と大分の由布岳を一生に一度見たいと思って来たのだと饒舌に語り出した。しかし、一生に一度見たいなど、これはよっぽど遠いところから来たに違いないと思い、「おじさんはどこから来たんですか?」と訪ねると、「うん??とおほく。。」と、どこか歯切れの悪い返答。聞かなくてもよかったのかもしれないが、「東北ですか。何県ですか?」、「うーん、だってそれを言ってしまうと、、、嫌われるもん。。。福島だよ。」。

なんて切ないことだろう。自分の故郷を名乗ることが憚(はばか)られることなんて、あっていいはずがない。今年の春までは、「福島は良いとこだよー。」って、さっきの僕のように堂々と言えたはずなんだ。

僕は、「おじさん、嫌いになんてなるはずないですよ。それに僕は熊本から東北へエールを送る活動をしてるんです。小さい力ですが本気で応援してます。頑張ってくださいね。」と、とにかく言葉を出した。思わず現地の方に直面して、想いが言葉にできないことを実感させられた。すると、おじさんは、笑顔ながらも「でも、頑張れって言われてもなぁ、地震ならまだみんなで片付けて綺麗にしたりどうにかするけどなぁ。放射能ばっかりはなーんにも出来ん。努力ってどうすればいいのかなぁ。なーんにも出来んのよ。」現地の人の重い重い言葉である。

僕は一瞬言葉に詰まるのだけど、ここで僕が詰まれば、せっかくひとときを楽しもうと九州まで旅しに来たおじさんを暗い気持ちにさせてしまう。僕が肯定してはいけないんだと、おじさんとなんだかたくさん話しをした。何を話したのかはもう覚えていない。

放射能が移るとか、誰か言ったよな。あーいうのはもう絶対に許せないのよ。ひどいよな。」おじさんは終始笑顔で多くのこと語ってくれた。いや、教えてくれた。経験のない僕には思いもつかない深い言葉の数々だった。

「必ず遊びに行きますね。会津若松松平家、白虎隊。歴史があって良いところですよね。」「うん、そんときは連絡してきなさい。温泉が良くてね、いい定宿があるから連れていくよ。」と、僕の名刺に住所と名前。

そして、「平成23.9.29 11:00快晴 熊本市白川橋にて、出会う」と書き残して、おじさんは電車の方に歩いていった。

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