阿部典史
朝早い仕事だった嫁さんが休みのわたしを揺すり起こして言った。
「ノリックが交通事故で死んだってよ。ニュースで言ってる。」
頭がボーッとして何も考えられなかった。
決して目覚めてすぐだからではない。
起こったことの重大さに頭の整理が追いつかなかったのだ。
伝え終えた嫁さんはその後すぐに家を出てわたしは一人になった。
のそりと起きてコンピュータを立ち上げる。
事件が嘘ではないことは嫁さんに何度も何度も「嘘?」と
繰り返し聞いて返ってくる言葉のトーンで分かっていたが
にわかには信じたくない思いがまた何度も確かめさせていた。
天才ライダーの路上での交通事故。相手のトラックがいいの悪いのではない。
あの屈託のない笑顔をもう見ることができないのだ。
5月に撮影した彼の写真。
ヘルメットの奥から立ち位置を元に戻して全日本に初心の気持ちで挑戦している
ノリックらしいやさしくも野望に溢れるあの視線が目に焼き付いている。
残念というよりは本当に悲しい。
心からご冥福をお祈りします。