The smell of sky

Photographer。知らない土地と、スタンダードが好き。アート、自然、田舎は心がヒリヒリして落ち着く。最近は400年に1度の大地震を経験して新たな悟りを開く。煩悩がある人間はこんなことがないと気づかない。

羽田空港

先日の東京からの帰り際。僕と音声の航(わたる)くんの2人で浅草から羽田空港に向かうと連絡すると、玉井夕海(たまいゆうみ)さんが渋谷から見送りに来るという。

夕海さんは「千と千尋の神隠し」でりんの声を担当したり、今回の映画「NOT LONG AT NIGHT」で主役を演じてもらっている女優さんで、また歌い手でもある。気の毒なので途中で落ち合おうとするが、東京にあまり土地勘のない僕らに気を遣ってか、結局わざわざ羽田まで来てくれた。それも、15kgはあるだろう、重いイタリア製のアコーディオンを華奢(きゃしゃ)な背中に背負ってやってきた。「お見送りに歌うね。」と言ってくれる。かねてから僕は夕海さんの歌を生で聴きたいとリクエストしていて、それを叶えてくれるのだ。

人のまばらな空港の屋上に移動して、どこかへ遠くへ飛び立つ飛行機を背景に、羽田に吹く海風の中で歌ってくれた。僕らのために歌いながらも、彼女自身に歌っているようでもあり、アコーディオンの温かくて悲しい音色が広い空港の中で僕ら3人だけを包んだ。

夕海さんはもうすぐ東京を離れ、長野の松本で暮らすらしい。この映画を終えるとしばらくは女優業も止めて、安い給料で働きながら音楽活動に専念するという。新たなステップ、不安や希望。重いアコーディオン以外にもたくさんのものを抱えて精一杯歌ってくれた。誰もが旅立つ羽田空港で。

120515

                       Title : 「羽田空港」 2012