兄と妹
昨日、嫁が無事出産を終え、娘が産まれた。
夜から破水が始まり、嫁さんは雅展(まさのぶ)を連れて病院へ。用事で出ていた僕は連絡をもらい急いで病院へ駆けつける。
急ぐ理由はどちらかというと長男の雅展で4才児にとって深夜の移動は辛かろうし、痛いお腹を抱えながらそれを見ている嫁さんもきつい。11時頃に病院へ着くと雅展はいつものように平然としていたが、何かがいつもと違うと感じていたようだ。
諸処、嫁さんと今後のプランについて打ち合わせをするともう午前1時前。付いていてもあげたいがそれでは雅展がきついので、結局タクシーで一旦連れて帰ることにした。雅展はクルマの中で産まれてくる妹の事を色々質問してくる。楽しみなようだ。帰宅後、ささっと雅展をお風呂に入れ、就寝。
翌朝、僕は4時頃に目を覚まし家の用事を済ませつつ朝を待っていた。
すると7時過ぎ。嫁さんから電話があり、なんともう産まれたとの連絡。こうなると仕方ないので雅展をたたき起こす。「マー!妹が産まれたってよ。起きて会いにいかなきゃ。」
雅展は、だだもこねずにむくりと起き上がってトイレを済ませ、せっせと着替えを始めた。寝不足なはずなのにクルマの移動中も話題は笑顔で妹のこと。
そして到着。いよいよ病室へ入ると、雅展の顔がいつの間にか緊張の面持ちになっていた。赤ちゃんをおそるおそる覗き込み、ただじっと見る。無表情で言葉も出さずに、じーーーっと見る。何を思っているのだろう。5分は見つめていただろう。
一方で赤ちゃんは案外忙しく、看護師さんにいじられあちこちに連れていかれ、雅展の前にずっと居るわけにはいかない。いなくなる度に「あかちゃんをみたーーい。もっとみたーーい。」と、主張する雅展。
そんな雅展の思いをよそに、家のことも仕事の段取りなどもいろいろあって病院にじっとしてもいられない僕。嫁さんも出産後で痛いし疲れてるしでとても残していく訳にもいかないので、雅展を連れてもう一度外出することに。連れて回ってる最中はふと見ると、どうにも重くなった瞼(まぶた)を閉じている。やはり相当きついのだろう。それでいて着いた先々ではしゃきっと平然を振る舞う。気を遣っているのだろう。
ぐるぐる回って、夕方6時半。また病室へ。
ようやく赤ちゃんも忙しさから解放され、ベッドの嫁さんの横ですやすやと寝ていた。するとその横に雅展は静かにごろんと転がって話しかけはじめた。「おうちはマンションだよー。家にはサラっていう犬もいるよ。金魚のキンちゃんもいるよー。」
我が家の環境を精一杯、たくさんたくさん話していた。きっと、こういう時間を楽しみにしていたのだろう。窓から落ちていく空の蒼を横に、添い寝をしながらずっと赤ちゃんを見つめていた。
雅展。おまえはいい奴だ。
おまえが産まれて4年。だだをこねた所を一度も見ていない。それでいて自分を押し殺さずきちんと主張できる。おまえはすごいやつだ。とーちゃんの誇りだ。
産まれてきた、美凉(みすゞ)へ。
いいお兄ちゃんを持ったな。
たくさん遊んでもらって、たくさん学びなさい。
ようこそ我が家へ。