小さな菊
朝早くから菊の花を撮影した。
辛気くさい話ではない。小さな話(物語)の挿絵用に気持ちのこもった
菊の花の写真がほしいという要望からだった。それも肥後六花の作品のような
立派な花でなく、ふだんは忘れ去られているように咲いている小さな野菊が
いい、とのこと。
自分は男だから、という言い方も乱暴かもしれないが普段、花の存在を
女性ほどには気にしていない。写真家としての自分を認識する年になってから、
または自分の庭でようやく植物を育てるようになってから植物への興味は
出るようになったが、花が好きな女性のように道すがら咲く花に
いちいち気づくセンサーは自分には未だない。
あらためてそういうオファーを受けて慌てて足元を見て歩くが結局は
嫁さんやその他の人に「どっかな〜い?」と、聞いて見つけてもらった。
情けない。
そうやって、見つけてもらったのは、郊外のあるお方の庭先。
敷地に入るなり立派に手入れされた松の盆栽がずらりと並んでいるが、
一方では山や野で見かけるような草花が無造作に植えてある。
なんとも不思議にバランスのとれた心豊かな庭だった。
お題の小さな菊を心を込めて撮った。
ファインダーを覗くと、この家の主の愛情が伝わって普段野花に興味のない
自分にも小さな菊の可愛らしさがじゅうぶんに染みた。
こんどからは道すがらに興味を持って見ることができるかな。
もうちょっと心を横に向ける練習をしてみようと思った。